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あれから一先輩とは図書室前で別れて、そのまま紫音は迎えに来ていた車に乗って、帰って行った。

紫音は送ってくれると言ってくれたけど、そこは丁重にお断りして、その走り去るテールランプを眺めながら、今しがた居合わせていた光景を思い出してみた。

まるでそこだけが別の空間であるかのような時間の流れ。
二人を取り巻いていた周りの視線でさえ、そこに入る隙なんて無かったように思う。

ただその中で一先輩は紫音を見守っていて、紫音はそれに身をまかしていた。

そこには紫音がまとうあの“一線”など感じさせなくて、それを解きほどく“一煌暉”。


"本当にあの噂の男なの?"


特定の彼女は作らず、来るもの拒ますの一先輩。
決して自分から動くことはないと聞いていたけど…


"あのあふれ出ていたものは嘘じゃないよね"


振り返って見た高等部の校舎。
そしてその向かい側に建つ中等部の校舎。

一見近くにあるかに思うその学校での生活は、全くと言っていいほど遠い。

それでも二人は出会った。

紫音がここへ戻ってきたのは、去年の秋口…

二人が出会うことすら許されていなかった過ぎた時間に、切なくなった。


──必然──


あの二人を包むものに…
自然とそんな言葉が心に落ちた。