私はいつもより少し早めにマンションを出た。
エントランスを抜け、コンシェルジュの人達と挨拶を交わし、外へと出た私は頭上の空を見上げた。
そこには今日も澄み渡る青が広がっている。

『いい天気』

目を細めながら少し口角を上げ、足を踏み出す。
マンションと表通りをつなぐ道。
手入れの行き届いた花壇にはたくさんの花が植えられていて、スプリンクラーの水しぶきに陽の光がキラキラと反射していた。

マンションから少しだけ距離のある場所に建つ学校。

そこまでの途中でさしかかる広い並木歩道の木々の根元にも、そこを彩るようにたくさんの草花が揺れていて、それらが爽風にユラユラとその身を揺らしているのが、まるで歌を歌っているかのように見えた。

それを見て、自然とゆるんだ私の口元が、無意識に音を奏でる。
ハミングでそれらとセッションしながら歩を進めていると、私の肩にそっと触れてきた手の感触に自然と振り返った。

視界に映し出されたのは私の親友。
私を見つめる碧(あおい)の笑顔がそこにあった。

「紫音、おはよ」
『おはよォ。………碧』

突然現れた碧に、今のを聞かれていたかと思うと少し恥ずかしくなる。

「どうかした?」

キョトンする碧。

『…………////』

何も言わない私に、

「アハ 心配しなくてもバッチリ聞こえてたから」

ウインク付きでそう言われ、カァッと頬に熱が集まるのが自分でわかった。

「何。今さら」

アハハと笑顔を向ける碧の言葉に、更に顔が熱くなる。

「そんな顔まっ赤にして、紫音は可愛いね。
でも朝から天然丸出しだと今日一日大変だよ?まっ、行動を起こせる人なんていないだろうけど」
『?』

碧の言っている意味がわからず、首を傾げてみる。

「や〜ん。もうっ!可愛すぎ」

そう言った碧はギュウッと私を抱きしめた。

「ダメ!その顔ダメだから!周りが見てるよ」
『!?』

私はハッとして周りを見れば、そこを行き交う同じ学校の生徒達が足を止めて、こちらを見ているのが視界に入る。
私と目が合うと、フイッと視線をそらし、急ぐように歩き出した。
その様子を不思議に思いながらも、立ち止まっていた私は碧と共に再び歩き出した。


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