生徒会臨時召集会議を終え、私は中央棟図書室へと足早になっていた。

「紫音大丈夫かな…」

ブツブツと言いながら階段をかけ上がる。
4Fの表示を確認して廊下へと踏み入れた時、そこに広がる光景に目を見開いた。
私の位置から少し先に見えた図書室前の人だかり。

「チッ」

思わず舌打ちが出た。

私はその場所を目指して歩を進める。
その私の姿をとらえた高等部の生徒達が、好奇の目を向けてくるから……
やはりこの場所に中等部の私がいることが珍しいのだろうか…
それとも日頃紫音と行動を共にすることが多い私が一人だから?
どちらにせよ、この人の多さは紫音目当てに集まっているんだろう。

「すみません。ちょっと通してもらえますか?先輩方」

そう言った私に道が開けた。


"何なの…この待遇…"


そんなことを感じて、目の前のドアを開いた。
中の様子をうかがうように、紫音を捜す。
でも、ここからではとらえることの出来ない場所にいるのか、姿が見当たらない。
私は本のインクの匂いがあふれる空間へ一歩踏み出した。
辺りを見渡し、少し奥まった所に見つけたその姿。
つい今しがたの、高等部の生徒達の私への態度が何だったのか、答えがそこにあった。

「何…あれ…」

ボソッと無意識にもれ出た声。
私の視線の先には紫音とその傍らに座る一先輩。
瞬間、私は不思議な感覚にとらわれた。


"昨日だよね…二人が知り合ったのって…"


紫音が机へと視線を落とす中、その隣で本を読む一先輩。
その光景はいたって普通なのに…
二人を包む空気が別のものへと変えている。


──恋人同士


とくに何かを話してるわけでもないのに、そう思わせる。

紫音の方を見た一先輩。
何気ない仕草でも、見ているこっちにまで伝わってきたその感情…

見つめる瞳に宿る優しさ。
柔らかい表情。
全身からあふれ出ている。


──愛しさ


それ以外に言葉が見つからない。

一先輩へ話しかける紫音。
少しのやり取りのあと、机の上を片付けておもむろに立ち上がった二人。
手には今までそこにあった数冊の本が抱えられていて、そのまま脇の書棚の奥へと移動した二人。

私は動くことなく、ただじっとその光景に見とれていた。

数分の後、再び姿を現した二人が荷物を手にしてこちらの方を見た。
紫音が私に気づいて笑顔を見せた。
そのまま一先輩へ何か言ったと思ったら、足早にこちらへ歩いてきた。

『碧、来てくれたの?』
「遅くなっちゃって。もう迎えの時間?」
『ん。今、連絡が入ったの』
「そっか。じゃあ行く?」

その会話の途中で、追いついてきた一先輩を私は見上げた。
目が合い、一先輩がちょっと驚いたような顔をするのがわかって…


"睨みつけてるのバレた?"


それでも一先輩は表情を一変させたあと、

「佐生…さん?」

私の名前を確認するように、聞いてきた。