『一先輩はご兄弟いらっしゃるんですか?』
「ん?俺?いるよ。どうしようもない兄が二人」
『そぉなんですね。フフッ お家の中が賑やかそう』
「あー。確かに小さい頃はいろんなことでうるさすぎて、三人でよく家から追い出されてたな。
今はさすがにそれはないけどな。ハハッ」
『やっぱり楽しそう』

視線が絡み、お互い微笑み合う。
そこで話が途切れると、彼女はまた手元のペンを紙の上に走らせた。

俺は彼女の傍らで思う。
つい昨日、彼女と話すことになったばかりなのに、この充実感はなんだろう。
彼女が意外にも普通に接してくれるからなのか…傍らにいることに何のためらいも見せないからなのか…

彼女にとって特に意味のないことかもしれないけど…


"期待してしまう"


このまま口説いても、さっきのやり取りからしてきっと気づかないだろうし、例え気づいてもヘタすれば昨日の今日で口説いてくる男なんて軽く見られそうだ。
……いや、実際軽いのか…
約束はしたけど…ケー番聞くのはマズい?
なら俺のを教える?
いやいや…どちらにせよ、こういうことに慣れてないっつうか、初めてて…タイミングがわかんねぇ…

考えに行きづまった俺は、さっき一緒に持ってきた英語の小説へと手をのばした。
こんな俺でも実は英語はかなり得意で、日本語に翻訳された物よりも、原作を読むことを好む。
それに、プライベートでの俺のおかれた立場に必要不可欠なのが英語だったし、その練習ともなっているそれ。
幅を広げる意味で高校では仏語を選択したわけだけど…共通点が見つかってかなり喜んでいる自分に笑みがもれた。