終礼を告げるチャイムが鳴り響いて、俺は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
眼上に広がるまだ青さの残る世界を瞳に映す。その澄み渡る空に彼女の甘い声を思い出した。

屋上での彼女と昨日の彼女。
その彼女から発せられた声の甘さは同じなのに…

一方には切なさが混じり、一方にはそれが無かった。

音に乗せた時にだけ混じるんだろうか…?
普段はその感情を押し殺している?

何故かそんなことを思ったけど、考えてもわかるわけがないことが気になるのは、全てを知り尽くしたいと思う俺の独占欲だろうか…
出会ったばかりなのに、狂おしいほど切なくなる。

あの瞳で見つめて欲しい。
あの甘い声で俺の名前を呼んで欲しい。

こんな気持ちになるのは初めてだった。


5限前からずっとこの場にとどまっていた俺は、最初は冷んやりとしていたコンクリートに自分の体温の温もりを感じる。
背中にあったその熱から離れ、半身を起こした。
その時にかすめた微風が俺の髪を揺らし、流れていく。
おもむろに片手で髪をかき上げて、そのまま立ち上がり、俺はその場を後にした。