「ねぇ紫音。どうしても行くの?」

全ての授業が終わったあと、ノートや教科書を鞄へ入れている紫音へ声をかけた。

『ん?行くよ』

何の迷いもなく答える紫音に、2日前の様子を話してくれたような不安さは見えない。

「だって私行けないじゃん」

だからつい私は拗ねた口調になってしまった。

『大丈夫だよ?この間と同じくらいの時間だし、利用してる生徒も少ないんじゃないかな』


"だーかーらーっ、それが心配なんでしょうが…"


と心の中で叫ぶ。

『それに中央棟の図書室じゃないと出来ないんだもん。
夏休みまでには完成させないと、間に合わなくなるし…』

紫音の言いたいことはわかる。
紫音が今手掛けていることを完成させるには、あそこへ行くのが最短。市街の図書館と比べても、ひけをとらない程の情報量だと思う。
それにもし市街へ行こうにも、常日頃から送迎つきの紫音がわざわざそこへ向かうとも思えないし。


"紫音のパパ溺愛してるもんなぁ…紫音もパパ大好きだし…とくに紫音パパはあの日からさらにパワーアップしてるみたいだし………って違う違う。今はこっち…"


と違う思考になりかけていたのを私は意識的に戻す。

「いつからの予定?」
『んー。終業式の次の日くらい?』

何の前置きもない私の質問に、普通に返答してくる紫音。

「えー!?そんなすぐなの?」
『そうだよ。だって記念日は25日だし』

“あ、うん。”の関係に喜んでいたのもつかの間で、その言葉に頬を膨らませてみれば、

『アハッ 碧ってば…膨れてもキレイだね』

なんてニッコリ笑われてしまった。

"や〜っっん、もうっ、可愛すぎる!!"

ハンパない威力の笑顔に今日何度めかのギュウをしてしまった。

『2週間の予定だからね。帰ってきたらいっぱい遊んで?』
「えっ!?2週間も会えないの?長いよー」

まさかの長期日程の紫音の発言に、お前は“彼氏”か?と思えるぐらいの拗ね方の口調になった私にクスクスと笑う紫音。

"だからその顔はヤメて下さい。本トお願いします"

私の懇願とは裏腹に、まだ笑顔のままで私を見つめる紫音。
そんな私達のやり取りを周りで見ていた男子達が、身悶えているのが手に取るようにわかった。
昨日の一件はさすがに誰一人として本人に聞くことは出来ていないみたいだけど、皆が気にしていることは一目瞭然なわけで…
まぁ、この件は当然ながら、放っといても大丈夫かな。
さて本題、本題。