あの後、碧と何気ない会話をしながらマンションに帰ってきた私は、自室へ入り、制服のままで物思いにふけっていた。

今まで関わることのなかった高等部の生徒。

ただ同じ敷地内に建つ2つの校舎で、その姿は見かけてはいるけど…

普段から、中央棟へは授業の一貫でしかほとんど利用することのなかった私が足を運んだ図書室。
その時の些細なことがきっかけで出会った高等部の一先輩。


"……とてもキレイな男(ヒト)だったな"


整った顔なのに、おごった感じもなく、私に対しても普通に接してくれて、性格もきっと親しみやすい人。

噂されているのが何となくわかった気がした。

それにしても碧の言った言葉。


“一先輩には気をつけてね”


何に気をつけるんだろう…?


視線の先の机の上に置かれた紙の束が目に入り、自室のドアへもたれ掛かっていた身体を立て直した私はそこへと近づいた。

そっとその上へ指先を這わせる。

書きかけの、未完成に綴られた文字は、私の大好きな歌を大好きな人達に贈りたいために始めたことで…


"昨日は結局何も出来なかったな…"


私は文字を見つめて思う。


"一先輩も……明日あの図書室に来るのかな…"