「中央棟の図書室、よく利用すんの?」
『…………』

唐突な俺の質問に彼女が困惑したのがわかった。
それもそうだろう。
初対面の俺に、なぜそんなことを聞かれるのか疑問に思うのは仕方ない。

彼女の行動を確認するような質問に、俺はどんな些細なことでもいいから、これからもつながりが欲しいんだ。と、その性急さに自分でも呆れた。

だけど、接点のない俺達がここで会話を終わらせてしまえば、ただ同じ学校に通うだけの中等部と高等部の生徒同士に戻ってしまう。

そんな関係を回避したい俺は、強引でも行動に出るしかなかった。



"どうしても欲しい"



その感情が俺を突き動かす、

『えっと…』

ポツリと彼女がつぶやいた。

『利用は昨日が初めてです。普段は中等部の図書室で事足りてますので』

彼女は一旦そこで言葉を区切り、視線をゆっくりと俺から外して伏せられた瞼。
その何気ない動きに俺は寂しさを感じた…

『……でも、少し利用する機会が増えます。今、調べていることが途中なので…』

下げたままの視線でゆっくりと話す甘い声。

そんな彼女を見つめていると、彼女がまた俺を見上げてくる。
再び絡み合った視線に今度は心地良さを感じた。

俺はいったいどんな表情になっているのか…それだけのことでも穏やかな気持ちが溢れてくる。

目元が細まり、自然と俺の口元がゆるんだ。

『わざわざ声をかけて下さって、ありがとうございました』

ふわっとした微笑みで、ペコッとおじぎをした彼女が一歩退いていた友人へ踵を返した時、

「月瀬さん」

俺は彼女を呼び止めた。

肩越しに振り返った顔。

「次、利用する日教えて?」

俺の言葉がまた予期せぬものだったからか、また少し驚いた様子の彼女。

それでも今の言葉に彼女は答えてくれた。


『明日、行く予定です』