その日の放課後、俺は仙ちゃんに言われた“自重”を実践するべく早めに帰ろうと席を立った。

「お先」

七聖に声をかけると、そんな俺の行動にニヤついて、

「反省中?」

と、からかい気味の口調が返ってきた。

「まぁな」
「お、素直じゃん。…けどあの御一行様はどうすんの?」

七聖に視線で指摘された方を見れば、そこには数人の女子生徒がこちらを見ているのが確認できた。

「いや、さすがに今日はな…つか、お前かもしんねぇじゃん」
「冗談。俺はちゃんと選んでるよ」

七聖のその言葉に昼間のやり取りが過る。

「そうだったな」

いつもの仕返しとばかりに、俺はからかい気味な視線を七聖へ向けた。

「…………」


"おいおい…かわさねぇのかよ。マジ惚れか?"


思わず俺が呆気にとられていると、

「やっぱり持ち帰る?」

今度は七聖が俺をからかってきた。

「それこそ冗談」

一瞬チラッと視線を女子達に向け、また七聖に戻しながら、

「ハァ……」

つい溜息が俺からこぼれた。

「……まぁ、確かにあのコ達みたいなタイプは、煌暉が相手にしてるのとは違って、対応しずらいかもな。
だからってアッチばかりじゃないことも知られてるから、お茶ぐらいならいいんじゃないの?」
「ヤダよ。面倒くさい」
「……珍しいな。いくら仙ちゃんの手前とはいえ、煌暉がそんな風に即答して、初めから嫌がるとか…」
「……………」
「無言?自分が拒否したの気づいてないとか?どういった心境だよ」

七聖の鋭さにも驚いたけど、それを指摘されたことのほうが自分を驚かせていた。

無意識にも俺をそういったことから遠ざけようとしているのが、仙ちゃんの言ったことだけじゃないことがわかる。



"マジで?何なの俺……"



「…帰るわ」
「は?」
「…別に声かけられた訳じゃねぇし、あえて近づく必要はないということで…帰る。じゃあな」
「マジかよ」

呆気にとられている七聖に軽く手を上げて、俺はその集団とは離れた後ろのドアから廊下へと出た。

視線を感じるのはわかったけど、やっぱり話しかけるつもりはない。
声をかけてこないなら、それでいい。
わざわざ声をかけやすいように仕向ける必要もない。

了承のことでさえ自分から行動を起こすことなんてなかったのだから……


現状は十分間に合ってる。


だけどそれさえももういらない、と無自覚に拒否していたことをこの後を境に俺は自覚することになる。

自分でも信じられない衝動にかられることなど、この瞬間の俺はまだ知るよしもなかった。


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