申し訳なさそうにそう言った先輩だけど、きっと違う。

私をずっと見守ってくれていた七聖くんが必要だと判断して、先輩へ話してくれたんだ。

“聞き出した”だなんて…親友を思う、先輩の優しい嘘だよね。

そしてその事情を知った上で想いを伝えてくれた。
届くかどうかもわからなかったのに……


自分と向き合い、乗り越えて手を差し伸べてくれた。

光を与えてくれた。

こんな私を癒しと安心で包んでくれた。


その事実が、私の中で閉じ込めた想いにまた熱を灯して、キュッと胸を締めつけてくる。


"好き……好き……大好き"


その感情が、私の頭の中と心の中を隙間なく埋め尽くしていく。
何も考えられなくて、涙を溢れさせたまま先輩の背中に腕を伸ばし、その場所の服をギュッと握り締めた。



『先輩が……好き』



つぶやきに近かった私の声。

それでもピクリと身体を揺らした先輩が、私を抱きしめる腕に力を入れた。


「名前で呼んで」


そう言いながら私の顔をのぞき込んでくる。

その表情が今までよりもずっと優しく甘くなっていて、私の涙を親指の腹で拭いながら、もう一度、


「煌暉って呼んで」


瞳と声にまで甘さを滲ませた。


『………………こ……うき…先輩」
「先輩はいらない」

『……………』
「紫音……お願い…」


その切なげな声にまた胸がキュッとなる。

『煌…暉……くん』

視線が絡んだまま、“先輩”を“くん”に変えたことが、私の頬に熱を集めてきて、恥ずかしさで顔がまっ赤に染まり上がるのが自分でわかった。

そんな私を見て、ギュウッと抱きしめ直した先輩が、

「もう一回呼んで」

と耳元で言うから、

『煌暉くん』

私はその名前を囁いた。

「ハァ…………たまんない。…………おかしくなりそう」

「超好き」

先輩がまた私の耳元でそう囁いた。



『煌暉くんが…大好きです』



大事な想いをもう一度、私はハッキリと声に乗せた。
そしてもう一つ大切なことを言葉にする。


『私を……救ってくれて、ありがとうございました』
「俺も同じだよ。ありがとな。……………それと…俺のこともちゃんと話したい。また聞いてくれるか?」
『もちろんです。煌暉くんのこと、もっと知りたいです。
だから、ずっと傍にいさせて下さい』
「!!」


「あーーーー…っと、敬語は禁止だから」

少し照れた感じで言葉を濁した煌暉くんが、早口に続けて言った要求。
ククッとからかうように笑った煌暉くんに、

『ムリ……です』

とちょっと拗ねた反論をしてしまった。

「っっ…………」


"あれ?"


黙ったままの煌暉くんが気になって、私がまた顔を上向かせようとしたら、さらに強く抱きしめてくる。

「見なくていいから」
『どうしてですか?』
「………………」
『煌暉くん?』
「……拗ねたのが可愛くて、デレた顔になってるから…」

正直にそう白状した口唇が、私の頭の片側に寄せられて髪に触れてくる。

「ずっと傍にいて。俺も傍にいさせて」



「生まれてきてくれて…ありがとう」



その場所に優しいキスを落としながら、煌暉くんが最上級の言葉を私にくれた。