「やっぱりいいよ。……がまんしなくていい」


切なげな瞳の先輩が、私との間にあったもう一歩の距離を縮めて、私を抱きしめた。

私を優しく包み込む腕と胸から先輩の温もりが伝わってくる。それがやっぱり切なすぎて、溢れ続ける涙。


"この場所は私のものじゃないのに……止まらない"


「俺のうぬぼれじゃないといいんだけど……月瀬さんの涙のワケ。

……あの女子は、彼女じゃないから」


"!?"


私を抱きしめたまま、ポツリ ポツリと語られていく。


「それに、そんなことを言うためにここまで来るわけないから。…どんだけひでぇ男だよ、それ」

私は抱きしめられているからそう言った先輩の顔を見たわけじゃないけど、先輩が言いながらにして苦笑したのがわかった。

「でも……
胸張って言えるようなことじゃないことを平気でしてたのは事実で、あの女子もその内の一人だった。
ましてや、そのことに何の罪悪感も持ったことなんて無かったんだ」

語られる内容に、先輩が自分と女の人との関係のことを言っていることがわかって、私から溢れ出ていたものが止まった。

ゴソゴソと動いて私が顔を上げると、そんな私の行動に私を抱きしめていた腕の力はゆるめられたけど、すっぽりと収められていた身体はそのままで……腰の辺りで組み直された手と手。

わずかに出来た隙間に、先輩が私を見下ろしてきた。

「けど……月瀬さんと出会ってから、そんなことをしてた自分が汚らわしく思えて、………それを月瀬さんに知られた時のことを考えると……怖くなった。嫌われるって……」

そこまで言った先輩の表情は本当に苦しそうで、私を見つめる瞳の色はそこには涙は無いけど、辛さがそこを揺らしていた。