放課後の誰もいない校舎の屋上で、俺は一人寝転がり、眼前に広がる空を仰いでいた。
だんだんと暮れゆく空は、徐々にその色を朱へと変化させていく。

ぼんやりと見つめるその光景に、フッと意識が薄れかけたとき、

♪~♪♪~…

どこからか、心地のいい声音が耳へと届いてきた。


「歌……?」


ゆっくりと、倒していた身体を起こし、その声音の元を確かめるために辺りを見渡した。

ある一点で俺の視線が止まった。

「隣か…」

同じ敷地内に中庭をはさむように向かい合う校舎。

そのもう一方の校舎の屋上にたたずむ一つの後ろ姿が見えた。

こちら側からは逆光で、その姿はシルエットしか俺の瞳に映さない。
それでも凛とした姿勢で空を仰ぎ、歌を奏でているのがわかった。

距離のせいか、途切れ途切れにしか聞こえてこない声音なのに、俺の心に染み入るように広がる。

「…甘いな…」

感じたことが言葉に漏れた。


茜色に染まる空。
そこに浮かぶ一星の輝き。


俺はこの時なぜかその声音の主を知りたいと強く思った。


キーンコーン カーンコーン…


その時、最終下校を知らせるチャイムが鳴り響く。と同時に隣の屋上の扉が開いた。

「……ん。また………って……の?」


友人だろうか…


『………………』

その声にゆっくりと振り返った声音の主は、何か言葉を返してその場を後にした。

去っていく姿に一瞬見えた制服のリボンタイの色。
えんじ色のそれに入った白のライン。

「3年か……」

そうささやいた俺は、すでに自分の心の中に生じていた感情の震えには、このときまだ気づいていなかった。