目の周りが真っ黒な、素顔が分からないくらいの濃い化粧をして、煙草を吸いながら聞いていたヤツは俺を見て「マジウケる」と言ってまた笑い出す。


「ヤッバ、誰かと思った。あんたマジ背高くなったんじゃん?」


まるで今まで何事もなかったように馴れ馴れしく話し掛けてきたのは、17歳のときに家を飛び出して、父さんの葬式にすら顔を出さなかった馬鹿姉の優姫香(ユキカ)だった。

「座れば?お土産いっぱい持ってきてやったからありがたく食べなよ」

新しい煙草に火を付けながら、優姫香は自慢げにちゃぶ台の上を顎で示す。

そこには滅多に食うことがないポテトチップスとかチョコクッキーとか菓子がたくさんあって、他にも由愛が好きそうな服やアクセサリーだとか、ひまりの好みそうなぬいぐるみだとかおもちゃだとかがたくさん載っていた。


「-------おまえ何しに来たんだよ」
「何って、あたしが実家に来ちゃいけないワケ?」

「今更どの面下げて来たんだよ……っ」
「はあ?こんだけお土産持ってきてやったんだから、ありがとうくらい言えっての、クソガキ。……ほら由愛、このチョコうまいから食ってみなよ」


優姫香にきれいなチョコレートが並んだ箱を突き付けられ、由愛は困った顔で俺と優姫香の顔を交互に見比べる。


「食べないの?これデパ地下の有名店のチョコなんだってよ。由愛チョコ好きだったでしょ?美樹も食ったら?」
「ってかおまえ、何普通に家に来てんだよ。帰れっ」
「何いきなりブチギレてんだよ、あんた」

「キレて当然だっ……知らないとでも思ったのか、こっちはおまえがヤバいとこから借金してるとか、子供堕ろすことになっとか、何かっていうと母さんに泣きついて今まで金巻き上げてたの知ってんだよっ!!どうせギャンブルだとかホストに入れ込んでただけのクセにっ。おまえの所為でこっちはどんな思いしてきたと思うんだよっ!!」
「…………うるせぇし、声デカいんだよ」

こっちは怒りの余りめまいすらしそうになっているというのに、優姫香はロクに取り合わずにまた煙草を吸って話を流そうとする。そのいい加減な態度にますます怒りが沸いて来た。


「マジで今更どの面下げて来たんだ、ふざけんな、とっとと帰れッ」
「だからここはあたしの実家でもあんだよ!!あんたみたいな稼ぎもしないガキにガタガタ言われる筋合いないんだ!」
「だったら……だったらせめてひまりの児童手当てくらい返せよッ」


俺の言葉に、優姫香はいかにも面倒そうに舌を打つ。