きみのためのプレゼント

「一番辛かったのは、声も思い出せなくなったこと。ショックだったよ。光とあんなに同じ時間を過ごしたのに。忘れたくない、まだ、ここにいないということを認めたくない。そんなときだった。あいつの声を思い出すことが出来たんだ、ある歌を聴いて」

二人で行ったカラオケ。わざわざ車椅子で行けるバリアフリーのお店を見つけてくれてフリータイムで歌った。


その時に光くんが歌っていた歌。去っていく好きな子に書いたラブレターを渡せなかったという少し切ない歌。


その歌を聴けば自分の耳にはそのアーティストではなく、光くんの歌声が蘇ったと彼は言った。


「嬉しかった。泣いたよ。ちゃんと俺の中に光がいるんだって。それから、俺は光のように生きようと思うようになった。いつでも、光が自分の中にいるんだと言い聞かせるようにして」


「さっき、言っていたもう一つの人格が光くんっていうのはそういうこと?」


「 そうだね。俺は光になりたい。無愛想から思いやりの気持ちを持ち、仏頂面から笑顔を心がけだ。冷たい言葉遣いも柔らかく話すようにした。そのおかげでたくさん得るものが出来たよ」


友達、信頼、絆。彼が挙げていく。少しずつうつむきがちだった顔も上げた藤本くん。そこには、もう後悔も吹っ切った強さも感じられた。


「そして、足が不自由でも辛いことがあっても乗り越えられるんだ。あいつのトレードマークの『笑顔』を忘れずにいれば」


「・・・ごめん。私、そんなことも、知らずに藤本くんのこと・・・誤解していた」


彼は境遇にあぐらをかいていたわけでもない。ましてやヘラヘラと笑みを貼り付けていたわけでもない。彼は、大好きな友達と一緒に生きていたんだ。


今も、そしてこれからも。