きみのためのプレゼント

こいつはー。耳元で囁く藤本くんは、大慌てで耳を覆い隠す私の反応をクスクスと笑っている。目の前の岡部さんは驚いた表情だ。


本当に、藤本くんのこのこなれた感が、気に入らない。それなのに、まだ彼は私に挨拶を促す。だから、私は言いたくないのよ。それなのに・・・


「・・・おはよう」


挨拶をしなければ、教室には入れませんという彼の意地悪な視線に、私は初めて岡部さんに「おはよう」と挨拶を返した。


藤本くんと足や境遇が入れ替わってから、五日が過ぎようとしていた。懸念していた副作用は私には起きなくてホッとした。


でも、私はあの日以来、教室には行っていない。


今月から、終業式まで短縮授業や振り替え休日でそんなに支障をきたすことはないと思っていた。


ところが、短縮授業でも移動教室やトイレにも一人で行けない私は、教室にいることが惨めに思えたのだ。


何でもかんでも、藤本くんには頼れない。ましてやトイレなんてありえない。どうしても、行きたくなったあの日、たまたま目が合った岡部さんに頼み込んで車椅子を押してもらった。


それが余計に悲しくて、教室に行くのが辛くなった。


藤本くんにだけは、本当のことを話した。すると、彼が言ってくれたのだ。


「ご両親に心配を掛けないために学校にだけは行こう。後は、保健室にいればいいよ」