きみのためのプレゼント

「・・・じゃあ、いくよって思ったけれどさすがにこれじゃ、うまく落ちれそうにないね。藤野さん、俺に抱きついてくれないかな?」


「だ、抱きつく?」


「そう。本当なら俺が君を抱きしめられたなら一番いいんだけど、さすがに立っているだけで、精一杯だし、ごめんね」



抱きつく。ただでさえ、手を繋いだだけでも緊張しているというのに、私から藤本くんに抱きつく?


そんなこと、と躊躇ってはいたものの彼の表情が段々と曇ってくる。もしかしたらかなりの苦痛を伴っているのかもしれない。


やむを得ない。私は意を決して彼の背中に自分の腕を回した。



「・・・ありがとう。じゃあいくよ」



私がゆっくりと頷くと、その言葉を合図に、視線を交わした。


「俺も、やっぱり抱きしめさせて」


その言葉と共に、私の背中にもそっと藤本くんが回る。とくんとくんとどちらのものかわからない心臓の音が聞こえる。


「じゃあ、いくよ。せーの!」


抱き合うように、階段の上から二人で転がり落ちた。大きな声で願いを口に出しながら。



「もう二度走れなくなりますように」
「もう一度走ることが出来ますように」



さよなら、私。



これからは、第二の藤野沙織として幸せになれますように。