2月も終わりを迎える、ある日の朝。



黒いコートに身を包み自宅を出ると、日差しはぽかぽかと暖かく、厳しい寒さがほんの少し和らいだのを感じた。



春がもうすぐそこまで来ているような、けれどまだ冬のような、そんな曖昧な温度はこの街だからこそ感じるのだと思う。

厳しい寒さばかりが印象づいているあの街を思い出すと、一緒に浮かべられるのは、彼女を救えなかった情けない自分だ。





「仁科店長、おはようございまーす」

「あぁ。おはよう」



新宿にある店舗にいつものように出勤すると、開店30分前の店内ではスタッフの藤井や上坂が開店準備を始めていた。

ふたりに短い挨拶を交わした俺は、足を止めることなくそのまま裏のスタッフルームへと向かう。



ここ、新宿店に赴任してもうすぐ2ヶ月が経とうとしている。

最初は基礎もままならなかったスタッフたちも大分よくなってきたし、売上げも着実に上がってきた。



もともとやる気がなかったわけではなく、教えればきちんと応えられるスタッフだ。それを怠った前店長に問題がある。

人に教えるより自分でこなしたほうがラクといえばラクだが、それでは人は育たないだろう……。



そう考えながら、スタッフルームのドアを開ける。するとそこには、すらりとした背の高い姿がひとつあった。