「あぁ!なんなんだぁ!何でこんな遺体にしたんだよ!犯人見つけたらぶっ飛ばす。」
「さ、桜。落ち着いて。」
 桜の荒れようはひどいものだけど、そうなるのも無理はない。
 桜の部屋に置かれた遺体は現実味がないほど綺麗だった。でも、とても固くてメスを使って解剖するのはとてもに大変だった。
 結局、解剖を諦め、胃カメラのような機械を使い、胃の内容物を取りだし、それを成分検査機にかけた。
 今はその結果待ちだ。
「まぁ、終わったからいいじゃん!一人でやるのは大変だっただろうからさ。」
「ま、まぁそうだけどね……」
「そう言えば、屍蠟化ってどうやってなるの?平賀先輩に細かく聞くの忘れたんだよね。まぁ、多少は分かってるんだけど…」
「あぁ。屍蠟化っていうのはだな。」
………そこからの桜の説明は長かった。
 簡単にするとこういう事だ。
 低温高湿度の特殊な環境下に置かれた時に腐敗や白骨化せず、体内の脂質が石鹸状になり、石膏のようになった永久死体の事だ。
 私の知っている事とさほど変わらない。
 桜の説明が異常なほど長かった─いつもは5分位で分かりやすく説明するのに1時間はかかった──のは、多分イラついてたからだろう。まぁ、あんな遺体じゃあね……
「そう言えば、髪、切らないの?先刻も邪魔そうにしていたけど。」
「髪、切りに行く時間がないから。それに長い方が好きだし、短いの似合わないから。」
 というより、遺体を目の前にしてよくそんな話が出来るね、と桜。遺体から気をそらそうとしたんだけど。
 桜は真っ黒な長い髪に桜色の温かい瞳が特徴的だ。とても綺麗なのに、少し男っぽいしゃべり方な所はただ見ただけじゃ想像がつかない。
「私も黒の髪がよかったなぁ。私の髪、茶色なんだもん。あぁ、羨ましい…」
「でも、小百合の瞳は僕も羨ましいけどね。オッドアイなんてそうそういないからね。」
 桜の言葉は少し嬉しかった。
 オッドアイと茶色の髪のせいでよくいじめられた。そんな私の瞳を羨ましいと言ってくれたのは桜が初めてだった。ここに来たばかりの頃だ。
「よし。そろそろ成分分析が終わる頃だよ。」
 桜の声にはっとして、うんと答えた。
「じゃあ、ここで待っててくれ。すぐに結果を持ってくるからさ。」
 私のスイッチは一瞬で“捜査”に切り替わった。