「…最後の事件?」
「ええ。奇怪な連続殺人事件でした。世の中には公開されていない、咲花さんにとって最後と言っていい事件です。」
「その事件とは一体…?」
 それはですね、と平賀先輩がいいかけたところで勢い良くドアが開けられた。
「平賀さん、大変だ!平賀さんと小百合が担当したあの呪われた事件の時と全く同じ遺体が回ってきたんだ!もう、上は僕に何をさせる気なんだ!まずは少し来てくれ!」
 しゃべり方は男のようだが女性だ。しかも綺麗だ。
 あぁっ。何故ここは綺麗な人ばかりいるんだ!!
 わかりましたと答えて急に入ってきた女性についていく。ついた先は検死や解剖をするとおぼしき部屋だった。
「これだ。」
 実験台の上に置かれたビニールシートをはがされた遺体は現実味がないほど綺麗だった。
「本当だ……あの時と全く同じだ……屍蠟化した…呪われた死体…一体どこで発見されたのです?あの時の二の舞にしたくはない!」
「あの事件と全く同じ場所だ。」
「屍蠟化?なんですか?それ……って平賀先輩?大丈夫ですか……?」
「おい、新人。」
「天草美琴です。天草でいいです。」
「天草。平賀さんが蒼くなっている理由が分かるか?」
 突然の質問に少し驚きつつ、はいと答えた。
「先刻言っていた呪われた事件という事件と全く同じ遺体だからですよね?」
「あぁ。そしてその“呪われた事件”というのは平賀さんと平賀さんの前のパートナーが担当し、解いた最後の事件だ。小百合がそのパートナーだ。彼女は口封じに。」
 そこで蒼くなっている平賀先輩を一瞥し、
「口封じに殺された。平賀さんの目の前で。」
 平賀先輩が膝から崩れ落ちた。泣いている。
「平賀先輩……」
「彼女は、最期まで凜としていました……ただ笑顔でした。」
「平賀さん。小百合が果たせなかった事件を公にする願い、必ず叶えてやろう。」
 そして私に向き直って
「平賀さんを支えてやってくれ。それと…その日記。きっと君を導いてくれるよ。真実にね。私もなるべく情報を集めるよ。」
 と言った。
「よろしくお願いします!えーと…」
「野花桜だ。桜と呼んでいいよ。」
「わかりました。桜さん。あ、私も美琴でいいですよ。」
 桜さんは私にウインクすると平賀先輩に向き直った。
「平賀さん。今日は休むといい。明日から始めろよ?美琴に迷惑をかけないようにな。」
 桜さんがそう言ったら平賀さんは子どものようにうなずいた。
 私はいつの間にか窓の外をみていた。オレンジ色の夕焼けは私達の事を、この事件の事を知らん顔しているようだった。