資料室と呼ばれるその部屋は兎に角警備が手厚かった。
 ここ、本当に資料が置いてあるのか?
 もしかしたら資料ではなく、例えば拳銃より強力な武器とかが置いてあるのでは?
 そう思ってしまうほどだった。
「ではこの端末を使ってお探しの資料を探してください」
「ありがとうございます」
 渡されたタブレット端末に文字を打ち込む。
 犯人、内容等打ち込む所が多かったが、年月日と捜査した科の番号位しか解らないな、とその二項目だけ打ち込んだ。
「…あれ?日にち、間違えたのかな?」
 検索結果によると、その年月日、捜査科番号に当てはまる資料がない。確かめたが、全部合っている。
「おかしいな…」
 一人で呟いてもう一度打ち直す。
 やはり出てこない。
 日にちと捜査科番号のみにしてもう一度検索する。
 少し間があって検索結果が表示された。
「!?これはっ!」
 沢山の資料の欄の中に見たことのある名前を見付ける。
 きっと他の人が見たら、「同姓同名の偶然だろう」と言うだろう。私だってそう思ったし、そう言うだろう。
 でも、何故か確信があった。
「11年前、の…8月25日~…捜査科番号4…資料制作者…」
 脳が警告音を発した。それ以上言ってはいけない。
 でも、勝手に口が動く。喉が震える。頭が痛い。
 そこに書かれていた名前は…
「──────天草…美咲…」
───11年前に死んだ、母さんの名前だった。


──事件概容
死臘化した遺体が神奈川県横浜市にて発見される。女性の身元は不明、行方不明届けの中にも合致する人物は居らず。
一週間後、新しい被害者が見付かるがそちらも身元不明。
捜査を進めるうちにserverというオカルト組織にたどり着くが所在地は不明。犯人も分からず。

「今起きている事件と全く同じ…?」
 タブレットに表示された棚の中にあった資料に書かれた言葉はにわかに信じがたいものだったが、信じる他なかった。
 これは、あの3人にも見せるべきでは?
 そう思ったところで、自分の目的を思い出した。
「あ、去年の資料。」
 だけど、無いものはしょうがない。
 この資料だけでも持っていくべきだろう。
 受付で許可をもらい、資料室を出た。








──この時はまだ気付いていなかった。
背中に注がれていた冷たい視線と、その視線が意味する事、そしてこの事件がどれだけ無慈悲で冷たく、私に向かって来るのかを…