会議はその後あまり進まず、結局零さんの一人語りで終わった。
「ま、今話した事は日記に書いてあるけど。」
 え?話した意味は…
「いちいち日記見るの大変だろ?簡単に話しといた方が楽じゃん?」
 つい、「えっ」と声が出た。
「零さん…心が読めるんですか…?」
 ん?なんで?と言われる。この人、色んな意味で怖い。
「とにかく、明日から本格的に現場に行ったりなんなりするからね!」
 零さんは楽しそうに言った。
 人が亡くなってるんだけど…
「おい、零。一般の警官をからかうのが楽しいって言うのはわかるが、一応殺人事件だ。それに相手は結構な手練れだ。油断大敵だ。」
 桜さん…零さん…なにやってるんですか…
「…やっぱり、一般の警官もいるんですか?」
「勿論だよ。僕らを警備にまで駆り出せないからな。」
「まぁ、そうですよね。でも…いえ、なんでもありません」
 言えない。一般の警官の皆さんになにやってるんですかとか言えない。
「どっちにせよ、現場に行くのは明日からだからさぁ、今日は資料の点検をしよう」
 零さんが近くに置いてあった資料を机に置く。
 ドンという音がなり、机が少し揺れる。
「おい、零。そっちの棚の中のも出してくれ。去年の資料もあったほうが良いだろう?」
「はいはーい、っと。これとこれと……あれ?ひとつない」
「え…?……本当だ。あれって何の資料だったっけ?」
 うーん…と二人が悩む。端から見ると、少しだけ恋人同士の様だった。そこに平賀先輩が口を挟む。
「あぁ、あの資料なら確かあの事件の後、すぐに上の奴らが回収しに来てましたよ。確か…資料室にあるのでは?」
「資料室、か…」
 零さんがそう言いながら私の方を見る。
 凄く嫌な予感がした。
「ねぇねぇ、美琴ちゃん!」
「……私、資料室の場所知りませんけど…?」
「俺、まだ何も言ってないよ?」
「予想つきますよ!」
 零さんが首を傾げる。
「うーん、しょうがない。桜、付いて行ってあげて」
 あ、押し付けた。
「……お前が行くんじゃないのか?」
「えー、だって女の子同士の方が」
「零、貴方がいても資料整理の役に立たないから、行ってきて下さい」
 零さんが可哀想になってきた。
「零さん!お願いします」
「んー。しょうがない、美琴ちゃんのおねがいなら聞いてあげよう!」
 先刻とはうってかわって元気に言った。
「……」
「……」
「……」
 零さん以外の全員が真顔になった。
「…じゃあ、良いです」
「え?なんで?というか、なんでみんな黙るの!?ねぇねぇ!」
「平賀さん、これは僕がまとめとく。だからこっちを頼む」
「分かりました。それ、おねがいします」
 ことごとく無視してる……
「え?ちょっと二人共!?無視しないでよ!ひどくない?そう思うよね!美琴ちゃん!」
 いや、思いません。
 心の中で返事をする。
「ここの地図ってこれですよね?」
「え?うん。そうだよ。で、資料室はここ」
「ありがとうございます!」
「……えーあー。うん。なんか……ごめんなさい」
「おい、変態!」
「……ん?俺の事?」
「そうだけど?」
「そうでしょう?」
「違うんですか?」
「……はい、手伝います」
「まだ僕、何も言ってないよ?」
 平賀先輩と私は同時に吹き出した。
「それじゃ、私は資料室行ってきます!」
「行ってらっしゃーい!」