キミを想えば想うほど、優しい嘘に傷ついて。

どうして父の親友が父を裏切ったのかはわからない。
お葬式のときに初めてその姿を見たとき、胸がざわついた。
父を裏切ったくせに、どうして平然とした顔でお葬式に参列できるんだろう。
けれど、幼かったあたしは、拳を握りしめてギュッと唇を噛みしめることしかできなかった。


「そろそろいこうか?」


お母さんの言葉にハッとする。


「あぁ、うん。そうだね」


立ちあがって【奥山家】と彫ってある墓石を見つめる。


あたしはあの日から、人を信じることが怖くなった。


父があんなに信頼していた親友からあっけなく裏切られたように、いつかあたしも大切な人に裏切られてしまうのかもしれない。


そんな思いは薄れるどころか、今も日に日に大きくなっている。


「お父さん、またくるね。今度はビールを持ってくるから」


お父さんに別れを告げてお墓をあとにする。


「お母さん、今日これからどうする? あたし買い物行きたいんだけど。欲しい洋服があるの。あっ、その前にお昼でも食べに行く?」


久しぶりの母の休み。


一緒にいられる貴重な時間。


母に目を向けると、母は少しだけ困ったように言った。