キミを想えば想うほど、優しい嘘に傷ついて。

父が母に隠れて何度も電話をかけていたのを、あたしは知っている。


『頼む。仕事をさせてくれ』


『お願いだ……。まだやり残したことがあるんだ』


父の悲痛な声が、いまだに耳にこびりついて離れない。


病気になり、徐々に体の自由がきかなくなり、仕事を取りあげられた父の苦悩は痛いほどにわかる。


父は亡くなる直前まで仕事のことを考えていた。


そんな父から仕事を取りあげたのは……父が一番信頼を寄せていた親友だ。


「お母さんだって知ってるでしょ? お父さんがどんな仕打ちを受けたか」


「花凛……あのね」


「この話はもういいよ。お父さんの前でこんな話したくない」


母の話をさえぎって、花をたむけて線香に火をつける。


墓前に父の好きだったコーヒーを置き、両手を合わせる。


ごめんね、お父さん。こんな話して。


でもね、あたし、いまだに忘れられないの。


あのときのお父さんの姿が……。


親友と一緒にふたりで立ちあげた会社をクビにされ、何度頭を下げても職場復帰が叶わなかった父。


信用していた親友の裏切りに父はひどく落胆していた。