「そうなのね。でも、いつかお母さんがお父さんに出会えたように、花凛にも大切な人ができたらいいわね」
母はそう言うと、ほんの少しだけさみしそうに目を伏せた。
母は6年経った今も、父を想っているんだろう。
父と母はあたしが知る限り、一度だってケンカをしたことがない。
幼い頃、友達にもよく『花凛ちゃんのお父さんとお母さんって仲よしだよね』と言われて、うれしかったことを今もよく覚えている。
「お父さんが亡くなってから……もう6年も経つんだね」
「そうね。今でもどこかにいそうな気がするし、『ただいま』って笑って帰ってくるような気がする。そんなことありえないってわかってるのにね」
「お母さん……」
「花凛にもさみしい思いをさせてごめんね」
「ううん、いいの。お母さんがあたしのためにがんばってくれてるの知ってるから」


本心だった。


母のがんばりは痛いぐらいにわかっている。


もう少し手を抜いてもいいのにとすら思う。


白髪が多くなり、少し痩せた母があたしは心配でたまらなかった。


「あら……」


父のお墓の前まで来て母が声を漏らす。


父の墓前に花がたむけられている。


線香の煙もまだ立ちのぼっている。


あたしたちより先に、誰かがお父さんのお墓参りに来ていたようだ。


「誰が来てくれたのかしら」


「誰だろうね……」


「もしかしたら、お父さんの会社の人かもしれないわね。ほら、お父さんの親友の……」


「――それはないよ」


母の言葉にあたしは顔を強張らせた。


病気になったとたん、会社は父を切り捨てた。