キミを想えば想うほど、優しい嘘に傷ついて。

『ハァ……まったく。花凛、さっきの気にしちゃダメだよ?』
『ありがとう』
京ちゃんにお礼を言って微笑んだとき、京ちゃん越(ご)しに日向くんと目が合った。
『え……?』


まわりで騒いでいる友達たちに気づかれないように日向くんは、


『ごめん』


たぶん口パクでそう言っていた。


もしかして……。


そのときふと思った。


日向くんが自分を『マザコン』と言ったのは、まわりにいるみんなの意識をあたしからそらすためだったの?


その優しい気遣いが、あたしにとってすごくうれしかった。


『ありがとう』


あたしも口パクで返した。


すると、日向くんがニコッと笑った。


子どものような笑顔を浮かべる日向くん。


今までかかわり合いのなかったあたしにまで、そんなに優しく微笑んでくれるなんて。


なんだかうれしくなって、あたしも日向くんの笑顔につられて微笑んだ。


あのとき一瞬だけ、あたしと日向くん、ふたりだけの世界が生まれたような気がしたんだ――。