キミを想えば想うほど、優しい嘘に傷ついて。

奥歯を噛みしめて、パンの包みを握りしめる。
『マジで? なんか、かわいそうだな』


『だよね~。だけどさ、ちょっとうらやましくない?』


ドクンッと心臓が不快な音を立てる。


『うるさい父親がいないからなんでもやり放題ってこと? だったら、あたしは母親がいないほうがいいかも。毎日いちいちうるさいんだよね~』


『わかる~! キャハハハハ』


『親いなければ好きなことできるもんね~』


日向くんの取り巻きたちの声は大きく、こちらにすべて筒抜けだった。


やめて。


もう、やめてよ。


思わずうつむく。


親がいなければ好きなことができるっていうのはちがうよ。


親がいるからこそ、好きなことができているの。


親がいるからこそ、今だってそうやって親のグチが言えるの。


もしいなくなったら、好きなことなんてできなくなる。


今のような生活が一変してしまう。


当たり前が当たり前なんかじゃなくなるの。