『父さん、痩せただろう?』


そう言われると、『そう? お腹すごい出てるよ』と言って平気な顔で笑った。


本当は全部、嘘だった。


父が病気になる前は、これから先、当たり前のように年を取って、おじいちゃんになっていく父しか想像したことがなかった。


いつかあたしも誰かと結婚して、子どもを産んで、父がおじいちゃんになって孫を抱っこする。


世話好きで子ども好きな父が、孫を溺愛する姿が容易に想像できる。


でも、そんな当たり前が当たり前なんかじゃないって、日に日に弱っていく父を見てようやく気がついた。


 『普通』に生きることの幸せに気づいたときには、もう遅くて。