そして、この一週間で結依子の不安は見事に的中した。
安定期に入って関係者にのみ夫人懐妊の事実が伝えられると、皆こぞって、念願の高柳家の跡取りの誕生だと騒ぎ立てた。
高柳家で代々、政治家としての地盤と由緒正しき家系を受け継いできたのは、男の子だ。これは、日本の風習を考えれば、ごくごく自然のこと。
そして、男の子が生まれない場合には女の子が、つまりは結依子か実依子のどちらかが婿を取って家を継ぐものだと周囲は考えていた。
しかも、結依子は両親から受け継いだ政治家としての素質が十分ある。堂々とした受け答えに、頭のよさ、何よりあの美貌だ。人々は高柳家の長女と会えば皆、彼女は政治家向きだと口々に言った。
『今時、どうしても男が跡を継がなきゃいけないわけじゃない』
『もしかしたら、日本初の女性首相になれるかもしれない!』
後援会の関係者からも、婿入りした男ではなく、結依子自身が将来政治家として跡を継ぐことを期待する声が多く聞かれた。
父である征太郎も、早くから結依子のその素質を見抜いていた。
だから、結依子には小さな頃から将来政治家になった時に必要な語学や弁論、接遇などの英才教育を受けさせていた。
そして、まるで示し合わせたかのように、結依子自身も将来は父のような政治家になりたいと憧れるようになる。
どうやら、本人も父親も本気らしいと聞けば、結依子が跡継ぎになるという噂はあっという間に広がり、彼女はいつしか政界のリトルプリンセスと呼ばれるまでになった。
高柳家の跡継ぎの椅子。
数日前まで、そこに座っていたのは結依子だったのだ。



