一週間前、真依子ちゃんのお腹の中の子どもの性別が判明した。
まだ大々的に発表されていないけれど、真依子ちゃんは第三子を妊娠中だ。
現役のファーストレディーのご懐妊は珍しいことだけれど、若くして首相の座に着いた征太郎君と、今年でようやく40歳になる真依子ちゃんなら、新しい命を授かっても特に不思議ではない。
医療の進歩と晩婚化が進む中、僕らの同級生にも、もっと高齢出産で生まれたという友達が大勢いる。
「今度は、男の子みたい」
「ほら、実依(みい)の言ったとおり!」
真依子ちゃんからの報告に、まず喜んだのは、結依子とは七つ年の離れた妹の実依子(みいこ)だ。
今年幼稚園の年長組の実依ちゃんは、安定期に入るまでしばらく大事を取って仕事などをセーブしていた真依子ちゃんにべったりくっついて、毎日お腹の赤ちゃんと何やら交信していたらしい。赤ちゃんは絶対男の子だ!という自分の予言が的中して、大喜びだった。
そして、その知らせに喜んだのは実依ちゃんだけではない。
「次は男か。楽しみだな」
「坊ちゃん、おめでとうございます」
今まで家では女子勢力に押され気味だった征太郎君は、聞いた瞬間に思わず顔を綻ばせる。隣にいた大川さんは、これでますます高柳家は安泰だと色めき立った。
「やった、仲間が増える」
そういう僕も単純に嬉しかった。一人っ子である僕にとって、高柳家の子どもはきょうだいのような存在だ。五年前、実依子が生まれたときにも、もちろん本物のきょうだいが出来たかのように喜んだのだが、弟が生まれるとなると別の嬉しさがある。年は離れていても、男同士でわかり合えることも多いだろう。
そんな胸躍らせる僕の隣で、一人放心したように宙を見つめる結依子に気付いた。
彼女は、長男誕生に浮き足立つ家族を一人唇をほんの少し噛みながら見つめていた。
その様子から、僕はすぐに彼女の心の中を察する。長い付き合いだから、彼女の考えそうなことはすぐに分かった。
「楽しみだわ。お母さん、大事にしてね」
すぐににっこりと微笑んだ彼女だけど、ほんの一瞬浮かんだ彼女の不安を、僕だけは見逃さなかった。



