「それに、大川さんにとっては、僕らは孫みたいなもんだから、仕方ないよ」
「もう、本物のおじいちゃんよりうるさいんだもの」

大川広志(おおかわひろし)さんは、僕の父さんと同様に、結依子の祖父である聡一郎(そういちろう)さんと高校時代からの親友だった縁で、高柳家に仕えている議員秘書だ。
聡一郎さんの政界引退後も征太郎君の秘書を務め、70歳を超える今でも、現役で地元事務所を支える一員だ。とは言っても、すでにほとんど引き継ぎを済ませていて、彼の仕事といえば、昔からの支援者への気配りや、若い秘書達の指導、そして、結依子たちの世話を焼くことくらいらしい。
彼もまた高柳家の近くで奥さんの美佐枝さんと気ままな二人暮らしのため、週に三度は僕たちの様子を見に来る。子どものいないこの老夫婦に、僕らは本物の孫のように可愛がってもらっていた。

結依子の祖父・聡一郎は、ハワイで暮らしている。年に一度は帰国するが、孫にはとにかく甘い“おじいちゃん”だ。これでも昔は、やり手の大臣だったのだと父さんから聞かされたが、僕はいまだに疑っているくらいだ。

聡一郎さんは桜が咲く季節に帰国を合わせることが多い。ハワイで一緒に暮らす、現在のパートナーの千代子さんの好きな花が桜で、帰国中に二人でお花見するのを楽しみにしているようだ。

「聡一郎さん、今度帰国するのはまた春かな?」
「……いや、赤ちゃんが生まれたら帰ってくるんじゃない?」

大好きなおじいちゃんの話題を振ったというのに、結依子の返事は素っ気ない。どこか拗ねたように唇を尖らせて、つまらなそうに空を見上げた。