――だ・か・ら・保険、もしもってことがあるだろ。それに、尾崎だってホントは伴奏したいはずだ

愛美は和音くんの真っ直ぐな眼差しに唇を噛みしめる。

――尾崎、今日から伴奏練習の前に毎回「ショパンの木枯らし」を弾け

「えっ!?」

愛美が目を丸くし、聞き返す。

――みっちり鍛えてやる

和音くんはメモを見せ穏やかに微笑んだけれど、本気で全国大会出場する気だと思った。

1時間の早朝練習。

足上げ腹筋50回、背筋50回、腕立て20回から始まり、顔のストレッチ、オクターブの発声練習、ロングトーン、スタッカート、ハミング、リップロール、タングドリルなど全身と顔の筋肉がプルプル痙攣するくらい、厳しいボイストレーニングを指導した。

「スパルタね」

仁科副部長が練習後、息切れしながら言ったほど過酷なボイストレーニングだった。