「まさか、発作起こして倒れてないよな」

群がる学生を掻き分け、ロビーを見回しているメッシュの若い男性は、LIBERTEのベーシスト拓斗。

あたしは心臓のドキドキが止まらなくて、息を飲み込んだ。

和音くんがLIBERTEのボーカルだとバレたらと思うと、どうしていいかわからなかった。

拓斗の目があたしたちの方を見る。

拓斗はスゴい勢いで駆け寄り、和音くんの肩を掴んだ。


「和音!? 具合悪いのか?」

和音くんは拓斗を見上げ「あっ」と引きつった声を漏らした。


「無茶苦茶なんだよ、お前は。調子悪いのに合唱のピアノ伴奏、ぶっつけ本番なんて。梅雨に入ってたびたび喘息発作は起こすし、テスト勉強と新曲制作で、まともに眠ってないくせに」

和音くんは喘鳴と咳で胸を押さえていた手で、拓斗の服の裾を数回引いた。


「えーーーっ!? ダサAliceが綿貫和音!?」