仁科副部長はあたしの背中をぽんぽんと叩き肩を抱き寄せた。

「あたし、Aliceに喉をしっかり治してほしいんです。歌いたいっていうAliceの気持ち、意志を大事にしたい。僅かな希望でも、治る可能性があるなら、会えなくても……だから、だから、あたしのことなんか気にしないで」

言いながら、涙が後から後から頬を伝った。

「有栖川は小日向のために歌いたいんだ。小日向のために喋れるようになりたいんだ。待ってくれる人がいる。期待している人が身近にいる、それだけで力になるのに……何故、あいつを孤独のまま行かせるんだ」

仁科副部長はあたしの両肩を掴み、激しく揺らし険しい口調で言う。

「Aliceのヴァイオリンの実力は、あのデュオのトニーにも劣らないくらいスゴいんでしょう?」

「デュオのマネジャーがジュリアード音楽院のプレカレッジを勧めるくらいだからね」