「ライブ中断したお詫びだって飛び出していった。あの歌は『ROSE』は、和音の十八番だ」

拓斗は自信たっぷりに安心仕切った顔をする。


「でも、彼は」

「わかってねえな。よく観ろよ、客を」

奏汰に言われて、イベント広場を観る。

デコった団扇を振り回したり、声を張り上げている人が1人もいない。

和音くんがしっとりと歌う姿を大人しく座って聞いている。

クラシックでも聞いているみたいに。


「和音はもともと1人、路上で歌ってたんだ。ボーカルとトラブって、バンド解散してた俺と奏汰が和音の歌に一目惚れして引き入れた」


「中3の夏だったよな、スゲーきれーな歌声だった。響いたんだよ、魂が、soulがよ」

奏汰が言う通りだと思った。

歌詞にこめられた思いが、和音くんの歌声から真っ直ぐに伝わってくる。