花音に伝えたい言葉がたくさんある。

手話ではなく筆談でもなく、自分の声で自分の口で言葉で伝えなきゃいけない思いがある。

まともに吃音せずに言いたいと思った。

歌詞の深みが、調和する3部のメロディーとなって胸に迫る。

俺は渾身の思いを込めて、ピアノを弾いた。


課題曲を弾き終え、息を整える。

倦怠感はさらに増し、目が霞んで手元もはっきり見えない。

息苦しさで眩暈もする。

俺は目を閉じ、首を振り、頬を叩いた。

――しっかりしろ

気合いを入れ、ゆっくりと深呼吸する。

ピアノ越しに花音の姿がぼんやり見えた。

静まった客席から「和音、頑張れ」拓斗と奏汰の声が聞こえた。

その声を機に、客席のあちらこちらから「和音くん、頑張って」の声援が響き、疲労感でいっぱいの俺に気力を取り戻させる。

――花音、関東大会に送り出してやる