「……あっ」

サッと手を引っ込め、前屈みになり両手を組み、頭に当てる。

「愛美、和音くんは弾くつもりだから。ダメならちゃんと言ってるはずだから」

あたしは祈るような気持ちで言う。

和音くんの完璧で圧倒的なピアノ伴奏は、愛美にとって相当なプレッシャーに違いなかった。

もしも、和音くんがこのまま弾けないなら……そう思うとあたしも怖かった。

刻一刻と出番が近づいてくる。

あたしたちは午前中最後に歌うことになっている。

和音くんの様子が心配で、他校の合唱が耳に入って来ない。

「かか花音、……さーーさ寒い」

和音くんの火照ってた体が震え、歯がカタカタ鳴っている。

「リーーリュックのなな中に……う上着が」

顔に耳を近づけ、やっと聞こえる声だった。

和音くんのリュックを急いで開ける。