体調は相変わらず、優れない。

尾崎には練習のたび、前半か後半ピアノ伴奏させ仕上がり具合を確かめた。

前日には「いつでも弾く覚悟をしておけ」と伝えている。

――LIBERTEのボーカル綿貫和音のオーラを消し、黒縁眼鏡をかけ、制服を微妙に着崩し、ダサい学生「有栖川和音」に戻った俺には、誰も振り返らない

そう思っていた。

会場の最寄り駅。

改札口を抜けるなり、さざめきや視線を感じた。

会場に着くと、更にはっきりとした反応に正体を晒したことを後悔する。

ロビーで顧問が受付を済ませ、コーラス部員の列に従い、平静を装って客席に向かう。

席に着きホッとし、ゆっくりと息を吐き出す。

「Alice!?」

花音が俺の顔を覗き込んだ。

鞄からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、少量ずつゆっくりと1口1口確かめながら飲む。