コンコンッ

「はーいっ」

部屋がノックされて返事をする。

「お風呂です」

!!
黒瀬だ!


私は急いでドアの方まで走りドアを開ける。


「黒瀬っ!!!…うっ」

急いで黒瀬を呼び止めようとしたけど、思ったより黒瀬が近くにいて、黒瀬の胸板に私の顔が勢い良くぶつかる。


「ちょ、近いからっ!」
私はすぐ黒瀬を軽く押して、怒鳴る。

「ぶつかってきたの水谷さんの方でしょう」

「フンッ!」

じゃなくて……

「黒瀬!」
部屋に戻ろうとする黒瀬を呼び止める。

「…」
黒瀬は黙ったままこちらを振り向く。


「あー…あのさー…勉強。その…教えろ!」

さすがに、教えろは人にものを頼む言い方じゃないけど。
相手は黒瀬だし。

「クラス最下位の水谷さんが、勉強?」

なんだこいつ。
だから、クラスから嫌われるんだぞ。

「悪い?やりたくないけど、今度のテスト悪いと危ないらしいのよ」

「留年ってことですか?」

「まぁ、そんなとこ」
別に自慢できることでもなんでもないのに、ドヤ顔でそういう私。

「ふーん。水谷さん、もう一回2年生でもいけそうですけど」

「はぁ?!あんたそれどういう意味よ!」

「別に。ただ、僕になんのメリットがありますか?」

「は、はい?」

「水谷さんは僕に勉強を教えてもらって留年を免れたことができたとして。僕に何かメリットは?」

な、なんなんだこいつ!
飛んだ性悪野郎だな。

「学年1可愛い私と2人っきりで勉強なんて、これほどの祝福がある?」

「1人で頑張ってください」

そう言って黒瀬は部屋のドアに手をかける。

「あー!待って!待って!待って!わかったから!何すれば見てくれるのよ…」

私は急いで黒瀬の手を止める。


「…僕の悪口、言いましたよね?わざわざ僕の聞こえる声で」

うぅ。
気にしてたのかー。

「それが何?」


「謝ってください」

「はぁ?!」


なんで学年1美女な私がこんなガリ勉ブス男に謝らなくちゃいけないの?!

「今ここで。僕の悪口を言って申し訳なかったと、謝罪してください。そしたら、勉強見てあげてもいいですよ?」


んだとーー!!!!
なんなんだこのくそメガネ!
自分が悪いんじゃん!
女子のこと敵に回すようなこと言って!!


「……」
黙る私。

「言いたくないのならいいです。僕も勉強みませんので」

「あぁー!待って!わかったわよ!謝るから!」


留年がかかってるんだ。
ここで、変なプライドのせいでもう一回2年生なんて、死んでもやだ。

「では、どうぞ」

メガネの黒瀬は私のことを見下ろすかのようにそういう。


「ご、ごめん」


「聞こえないです」

ムカッ

「黒瀬の悪口…言ったこと…ごめん」

「全然聞こえないですね…水谷さん」
絶対聞こえているはずなのにそういう黒瀬に腹がたつ。

でも、ここで怒ったらなにも始まらない。

「だから!黒瀬の悪口言ってごめんなさっ…!」

大声で謝った瞬間、黒瀬がいきなり私の肩を掴まえて、至近距離でじっと私の顔を見た。


なななななな、なんなのよ!!!


「ちょ、何よ!」
私がそういうと、黒瀬は私の髪の毛を触りだして、髪からとった何かを指に乗せて私に見せる。

黒瀬の指には何かの粉のようなものが乗っていた。

「高校生にもなっておやつの食べカスを髪の毛につけて歩くなんて、自称学年1の美女も大したことないですね」

はぁ?!?!


そういえば…
今、ポテチ食べながらスマホ触って…その手で…。


「黒瀬の分際で触らないでよ!」

「フッ。水谷さんの分際で僕に怒鳴らないでください」

はぁ?!?!

黒瀬は、あまりの衝撃で突っ立てる私に「お風呂、早く入ってください」と一言言ってから部屋に入ってしまった。

なんなのよあいつーー!!!

っていうか人が謝ってたの聞いてたの?!
つーか、なに?!
言い返してきたんだけど!!!!

私はワナワナと怒りがこみ上げてきながらも、うんと我慢して、浴室に向かった。


っていうか。
勉強見てくれるの?!?!
どうなのよー!!!