「おかえりなさーい!」
うちに帰ると、可愛い笑顔の麻友さんが玄関で出迎えてくれた。
「あ、ただいまです!」
「『です』って莉子ちゃん可愛いー!」
「えへへ」
麻友さんの顔を見ると、息子の黒瀬を悪く言ったことが少し申し訳なくなる。
でも…おたくの息子が空気を読まないのがいけませんから…。
「ねぇ、葵、やっぱりクラスで1人なのかな?」
おやつのドーナツをお皿に並べながらそう聞いてくる麻友さん。
「あー、黒瀬本人が、1人なのが好きっぽいですよ?」
「そう…」
「心配なんですか?」
「んー。小学生の頃のあの子と随分変わったから」
え。
黒瀬、昔はああじゃなかったの?
「昔はどういう…」
「水谷さん、ちょっと手伝ってもらえる?」
へ?!
階段の方から声が聞こえて振り返る。
そこには、少しこちらを睨む黒瀬がいた。
う。
帰ってたんだ。
「ちょっと、葵、おかえりくらい言ったらどうなの?」
麻友さんが優しく叱る。
「…」
黒瀬は麻友さんを無視して、私に「ちょっと」と呟いて、私の腕を掴まえるとスタスタ階段を上がっていく。
「ちょ、黒瀬?」
っていうか、黒瀬に触られてることがキモいんだけど。
「黒瀬、離してよ、安易に私触らないでくれ…」
ドンッ
2階に上がると、黒瀬の部屋のドアと隣のドアの間の白い壁に追い込まれた。