「ついたーーー!!…げ!」
寒さの中、やっとの思いでついたけど、そこには見覚えのある背中が特等席を占領していた。
「黒瀬、早いね!」
私は彼に駆け寄って、隣にちょこんと立つ。
「あけましておめでとうございます。水谷さん」
黒瀬は私が急に来たことに驚かずにそういう。
「あ、うん!おめでとう!」
改めて新年の挨拶とかなんだか照れる。
「あ、ほら、来ますよ」
黒瀬がそう言って、正面を見つめると、初日の出がすっごく綺麗に見えてくる。
「綺麗…」
「はい、すごく」
何にも悲しいことがないのに、涙が出そうになる。
綺麗すぎて。
「…綺麗…だね」
「…僕も、毎年これを見るとそんな風になります」
「え…」
黒瀬は私の方を振り向くと、私の頬をつたっている涙を親指で優しく拭ってくれた。
な、なんなのこれ。
なんで黒瀬にこんなことされなきゃ…。
狂わせてるのは…どっちの方よ…。
「…彼の彼女と…関係を持ってしまったんです」
「へ?」
黒瀬のいきなりの発言に思わず聞き返す。
「新年早々こんな話、どうなのかなって思うんですけど。でも、今しかないって思います」
「…黒瀬」
「和田すばる。物心ついたときから、彼とはずっと一緒で。親友でした」
うそ…。
黒瀬が。
話してくれてる。
昔のこと。
「中学の頃も彼とはずっとつるんでいて。そんな時 すばるに彼女ができたんです。2歳上の彼女が。あいつその人にすごい惚れていて…彼女のこと大好きだったんですよ。でも…」
「…でも?」
「ある日彼女、僕に寝てほしいって頼んできたんです」
「そんな…」
「僕はすぐ断りました。眼中になかったですし、何より親友の彼女と寝るなんて。ありえないです。でも…彼女、寝てくれないなら、すばるに僕に襲われたって言うって言い出したんですよ」
「ひどい……」
「何か方法があったはずなのに、あの頃の僕はされるがままっていうか…」
黒瀬の声が震え出す。
世の中にそんな女の子がいるのかと驚きを隠せない。
どうしてそんなこと。
「そしてある日の放課後、彼女にキスされてるところをすばるに見られてしまって、結局彼女は僕に無理やりさせられたと言いました。それからすばるとは…」
「ひどすぎるよ…」
「…すみません。話すぎましたね。新年早々…って…水谷さん、泣きすぎです」
黒瀬が私の顔を見てそう言う。
「だって…黒瀬…かわいそうだよ…ひどいよ。その人…写真の2人すごく仲良さそうだったのに…」
「水谷さんって純粋っていうか、単純っていうか…。いいですか?こんな話、簡単に信じないほうがいいですよ。僕が水谷さんの気を引きたくて嘘ついてるかもしれな…っ」
「信じるよ」
私は思わず、黒瀬を抱きしめてそう言った。