「ついてきて」
「あ、うんっ」
彼のあとをついて、草むらの中を歩いていく。
道から少し外れたところ、湖に向かって佇む桜の木のそばにあるベンチ。
「バスの時間まで、まだあるし。少しここで座っていこうよ」
そう言って彼は、あたしに笑顔を向ける。
「うん」
なんだかずっと胸がドキドキしているあたしは、肩からかけていた鞄をぎゅっと抱え込んだ。
「俺の好きな場所」
ふたりの間に鞄がふたつ置けるくらいのスペースをあけて、あたしたちはベンチに座った。
「春は湖のそばに桜のトンネル、夏は湖の上に花火が見えるよ」
「花火も見えるの?素敵な場所だね」
あたしが微笑むと、彼も口をきゅっと結んで笑顔を見せる。
「やっと笑った」
一瞬、胸がぎゅっと締めつけられた。
今日初めて逢った人と、こんなふうに笑って話せている自分にも驚いている。
彼の明るく親しみやすい雰囲気のおかげかもしれない。
「あ、まだ名前聞いてなかったよな。名前なんていうの?」



