春、さくら、君を想うナミダ。[完]




彼は桜を見上げながら、優しく微笑む。



その横顔があまりにきれいで、あたしはジッと見つめてしまった。



「俺、通学路こっちじゃないんだけどさ。朝早く目が覚めて、ここの桜が見たくて遠回りしていこっかなって」



彼があたしに視線をうつした瞬間、あたしは慌ててうつむいた。



「すごく……きれいだもんね」



あたしはつぶやくように言った。



「桜、好き?」



彼の質問にあたしは顔を上げる。



「俺、すっげー好き」



あたしは思わずドキッとする。



“好き”って言葉を、こんなふうに笑顔で素直に言える人って素敵だなって思った。



「あたしも……好き。季節も春がいちばん好き」



「俺もっ」



彼の笑顔は、春の日差しのような柔らかさがあって、



見ているとあたたかい気持ちになる。



すごく優しい顔で笑う人なんだなって、そう思った。



「誰にもヒミツだったけど、特別に教えるよ」



「え……?」



「俺が、この町でいちばん好きな場所」



そう言って彼は、数メートル先にある木のベンチを指差した。