頷き、寝室から出てキッチンへと立つ。

ダイニングと遮る壁のない、アイランド型のキッチン。

どこにコーヒー豆とマグカップがあるのかはわかってる。

コーヒーメーカーをセットし、シンクに残されてた二つのグラスを洗いながら、ポコポコと音を起てながら滴り落ちるコーヒーが出来上がるのを待つ。

このグラスは、風岡と誰が使ったものだろうか。

そんな事、あの冷たい瞳に向かって訊く事など恐ろしくて出来ない。

だって、私たちは恋人のようで恋人ではないからである。

私が風岡に身体を求められた時に、「恋人じゃない人とは嫌」と言った際、「なら、恋人で構わない」と、彼が適当に答えただけに過ぎないから。

あの、1年前の夕立の日に、あっさりと奪われて行った処女に後悔などない。

しかし、あの適当に認められた“恋人”という関係は、私たちが教師と生徒じゃなくても口外出来たものではない。

淹れ終えたコーヒーをマグカップに注ぎ、リビングのローテーブルに運んでソファーに座ると、下着とジャージーだけを穿いた風岡がやって来た。

私の隣に座る彼から、新しく火を点けたであろう煙草を奪う。



「フーッ……」



それを我が物顔で吸おうと、風岡は何も言わない事はわかってる。

以前から私が喫煙者である事を、1年から担任である彼は知ってる。

かと言って、学校では口頭注意。

ここでは何も言わない。



「風岡、吸い過ぎ」



「お前に言われたくねぇな」



だから言ってるんだ。