ここで息をする



何かが出かかって詰まったわけではなく、その先に続く言葉を私は持ち合わせていなかった。

知っていたら……私は、どうしていただろう。

どれだけ先輩に頼まれても、ヒロイン役を引き受けなかったのだろうか。泳げない気持ちを理由にしたように、気まずい友人関係を理由にして逃げようとしたのだろうか。

自分に問いかけてみるけど、どうもその答えは出てこない。結局高坂先輩の真っ直ぐな思いに影響されて役を引き受けることにしたわけだし、今更そんなこと考えても無意味かもしれないけど……ただ、この状況が気まずいのは確かだ。

その一方で航平くんが私とは正反対な様子が、どうも腑に落ちない。

私と一緒に映画に出演すること、航平くんは嫌だと思わなかったの? いつも顔を合わせるだけで気まずそうにしていたのに。

そんな私と共演することを分かってて、それでも引き受けたっていうの?


「二人って、お知り合いなんですかー?」


私が中途半端に言葉を止めて航平くんと不自然に見つめ合っていると、能天気な質問が飛んできた。興味深げな声は田中さんのものだ。

はっとして周りを見ると、田中さんを始めとする部員三人が私と航平くんのやりとりを見て不思議そうにしていた。私達が知り合いであることをすでに知っている高坂先輩は、黙って事の成り行きを傍観している。

答えなきゃと思う私の頭に、ふわりと温もりが乗せられた。ぱちぱちと瞬きをして目を上に向けると、航平くんが私の頭をぽんぽんと撫でていた。妹を見るような優しい眼差しを私に向けて。


「そうです。小さい頃からの知り合いだから、いわゆる幼馴染みみたいな大事な友達です。な、波瑠」

「……っ、うん」


こくりと小さく頷く。航平くんにとって私はまだ気兼ねなくそう呼んでもらえる存在であることに、胸の中が甘い温かさと少しのしょっぱい気持ちで満たされた。