ここで息をする



「……あっ、他の方も待たせてしまってすみませんでした。俺は主人公の幼馴染み役をやることになった、3年の相川航平です。初っ端から遅刻してものすごく気まずいというか申し訳ないんですけど、役はちゃんと頑張るのでよろしくお願いします!」


先程慌てて部屋に入ってきたときに高坂先輩に向けて告げた謝罪を、部屋の中に居た全員に向かって再度口にする。

そして自己紹介も加えてぺこりと頭を下げたこの人はどう見ても……私がよく知っている航平くんだった。


映研部の部員のうち三人は私にもしたように一人一人挨拶を始めて、航平くんは各々の言葉にしっかりと頷きながら耳を傾けていた。

私はそんな航平くんを、複雑な面持ちで見ることしか出来ない。


「瑛介……と波瑠は、自己紹介してもらわなくても大丈夫だな!」


如月先輩、佐原先輩、田中さんから、高坂先輩と私へと視線を向けた航平くん。互いのことをよく知っているだけに、軽く笑いながらおどけるようにそう言った。

その様子を見ている限り、私がこの場に居ることを航平くんはちっとも驚いていない。心なしか、いつも纏っていた気まずい雰囲気を吹っ切っているようにさえ見えた。

しいて言うならばそう、私が水泳をやめる以前のような、気楽に接していた頃のようだ。

今では思い出と化してしまった大切な友人の自然な姿が、目の前の航平くんに再び宿っている。その唐突な変化に、航平くんの登場で混乱していた頭がますますこんがらがった。

私だけが、この状況についていけていない。それでも何とか少しでも状況を理解しようと、航平くんに向かって口を開いた。


「こ、航平くん、私が主人公をやるって知ってたの?」

「え? ああ、知ってたよ。波瑠は俺が幼馴染み役って知らなかったのか?」

「知らなかったよ。知ってたら……」


そこまで言って、言葉が止まる。