打ち合わせにメイン二人しか呼ばないなんて、意外と小規模な撮影なのかな。そもそも映画制作がどれくらいの規模なのかも知らないから、予想でしかないけど。
……今から来る幼馴染み役の人って、どんな人だろう。一応内容には恋愛要素も入っているから、私が想いを寄せる相手役。
今から会うのかと思うと、興味と緊張で胸が高鳴った。全然知らない人と幼馴染みの間柄を、しかもその人を好きな役を演じるってなかなか想像出来ない。何となく難しそう。
言ってしまえば高坂先輩も知り合ったばかりだし、他の部員の人達となんて今日が初対面なのだからその人も変わりはないのだけど……。やっぱりちょっと、同じ役者をする人は別格というか。
演技の中とはいえ一番接する機会が増える人だから、出来れば取っ付きやすい人だといいなぁと願った。
「委員会の仕事が終わったら来るって言ってたから、そろそろ来る頃じゃねえかな」
高坂先輩が左手首に着けている黒いスポーツウォッチに視線を落とす。
……と、ちょうどその直後だった。
「わりぃ瑛介、思ってたより遅れた!」
パタパタと駆けてくる足音が近付いてくるのに気付くと同時に、私の背後の入り口から一人の男子生徒が入ってきた。私の横をすり抜けて、室内の空気にふわりと流れを作る。
相当急いで来たのか声には焦りが滲んでいるけど、制服のシャツ越しでも窺えるほど筋肉がしっかりついているその人は、走ってきた様子のわりに息はあまり乱れていない。
……嘘でしょう?
その黒髪短髪の人物を見上げて横顔を確認した瞬間、私の息の方がどうにかなるんじゃないかと思った。信じられないという思いによる驚きで、鼓動が一気に加速していく。
どうして、この人がここに……。疑問と動揺で頭が上手く働いてくれない。
固まってしまった私の視線の先に居るその人は、一息つくと一気に喋った。


