ここで息をする



みんな人のよさそうな顔で私の言葉に耳を傾けてくれて、改めて「よろしく」と各々言葉をかけてくれる。嫌々挨拶をしている様子でもないし、むしろ歓迎ムードに感じてほっと息を吐いた。

よかった。部員の人、みんないい人そうだ。

たとえ監督をする高坂先輩にイメージが合うからと主役に選ばれても、他の部員に受け入れてもらえなかったらやっぱり気まずいもんね。でもこの感じだと、高坂先輩が描いているヒロイン像はちゃんと部員全員にも共有されているらしい。

私のどこがイメージに合っているのかは脚本内容や先輩の説明を聞いてもいまいち掴めていないけど、それを崩して期待外れなんてことにはならないようにしたいな。演じるときに気を付けないと……。

主人公なんていう重大な役を務めることにも緊張しているけど、自分に似合っていないような水泳好きのヒロインを演じることの方がよっぽどプレッシャーを感じていた。

でもやると決めたからには、頑張らないとね。部員や共演者の人達には迷惑かけられないし……っていうか、あれ?


「他の役者さん達はまだ来てないんですね」


ふと部屋の中の顔ぶれを確認して、ここに居る全員に問いかけるように呟いた。

今居るのは制作スタッフとなる部員と、主人公を務める私だけ。主人公の幼馴染み役とか、他にも水泳部の部員の役とか、それなりに人が必要となってくるはずだけど、まだそれらの役者さんの姿はない。

すでに人口密度が高い部屋にこれ以上人が来ても入れるのかと不安にもなるけど、高坂先輩はそんな私の危惧を見抜いているような口振りで言う。


「そのうち来る予定だ。まあ今日の打ち合わせに呼んであるのは、メインキャストの波瑠と幼馴染み役のやつだけだけどな」

「あ、そうなんですか……」


打ち合わせって言うわりに参加する役者は二人だけと知って、少し拍子抜けしてしまった。