鼓動の音が速く大きくなっていた。耳に纏わり付くそれに触発されて、あの嫌な息苦しさが顔を出す。
……どうしてよりによって、私なんかがイメージに合ってしまったのだろう。
水泳をやめた私に、水泳部の役だなんて……。私には到底、似合わない役だ。
聞かされた内容は一応頭に入ってきていたけど、心中の大半を占めているのはヒロインの根本的な設定だった。
戸惑いがぽつんと胸の底に落ちて広がる。
「どうだ? この役、やってくれるか?」
しばらく黙りこんでいたから、先輩にはそれが役を引き受けるか否かを考えている姿に見えたのだろう。期待を込めた顔で返事を求められてしまった。
でも実際は、返事を考える以前にやや違った方向に意識が向いていただけ。それでも、返事を決めるには十分な内容だった。
すぐさま浮かび上がった答えを躊躇うことなく告げる。
「ごめんなさい。出来ません」
「……まじか」
「まじです」
気まずい沈黙が流れる。
私が断りの言葉を告げても、先輩はあからさまに驚いた顔にならなかった。もしかすると、こうなることは想定済みだったのかもしれない。
むしろ断られても端から簡単に引き下がるつもりはなかったようで、私が口を固く閉じてしまっても、沈黙をぶち壊すように諦めずに口を開いてきた。
「どうしてもだめか?」
「……はい」
「演技のことを気にしてんのか? それなら大丈夫だ。そんな高い演技力を求めてるわけじゃねえし」
懸念している要素は演技だと先輩は思ったのか、大してそれは重要ではないと訴えてくる。確かにそれも気掛かりだけど、それ以前の問題だ。
私がこの役を演じるなんて……無理だよ。
首を小さく横に振る。


