先輩はイメージで私を選んだみたいだけど、一体どんな役のイメージなのだろう。……取り柄のない影が薄いヒロイン像しか、虚しいことに思い浮かばない。
自分で勝手にこんなことを考えながら、そんなイメージでヒロインに選ばれるのもちょっと悲しいなと、自信なさげに背を丸めながら思った。密かに緊張している私の耳に、先輩の軽い感じの声が届く。
「んー、それは説明するのが難しいな。直感的にイメージに合うって思っただけだし」
仰け反るようにパイプ椅子の背にもたれて、先輩は頭の後ろで手を組んだ。宙に目を泳がせて考える素振りを見せるけど、結局先輩はとにかくイメージに合ってたんだよ、と同じことを繰り返すだけだった。
抽象的な理由に拍子抜けする。その選ばれたイメージが分からないから聞きたかったのに……。
おかげで胸がもやもやとすっきりしないままだ。
「じゃあ、どんなイメージなんですか? そもそも、どんな映画でどんな役なんですか? それを聞かなきゃ、引き受けるかどうかもちゃんと考えられませんよ」
肝心の映画内容と役の設定を聞いていないことを思い出して、早口で問いただした。先輩もすっかり忘れていたみたいで、程よい高さの鼻先を指で掻きながら歯切れ悪く言う。
「そういえば、その説明がまだだったな。まあ、簡単に言うと……水泳部の男女の物語だよ」
「水泳部……」
さらりと先輩の口から飛び出した、私にはあまりにも縁があるそれに、どくんと強く脈打った。
自分で聞いておきながら聞かなきゃよかったとすぐさま後悔した。そもそも先輩の話を聞こうとしたのが間違いだったのかもしれないと、少し過去の自分を恨みたくなるほどに。
全身の血の気が引いていく私の心情など知らない目の前の彼は、淡々と言葉を続ける。
その話をまとめるとこうだった。


