「ここ数年はずっと、役者は基本部員以外の人に依頼してるんだ。エキストラはポスターを作って募集したりして、メインキャストはいつも監督をやる部員が自らイメージに合う人を探して頼み込んでる」
「じゃあもしかして、今年の作品の監督は……」
「俺だ。ちなみに脚本も担当してるから、ストーリーもそれに合うイメージのキャストも全部俺が決めてる。……それで今回、おまえに頼むことにしたんだ」
高坂先輩が、深く息を吸って私を見据える。一点の曇りもない真剣な眼差しだった。
「……改めて頼む。どうか俺達の映画に、ヒロイン役で出演してください!」
熱のこもった輝かしい瞳でそう言ったかと思うと、お願いします、とさらに続けて頭まで下げられてしまった。
――ああ、この人は、心から映画が好きなんだ。
そして、真剣に作ろうとしている。自分が作りたい作品のイメージを忠実に再現しようと、わざわざ知り合いでもない一人の生徒にこんなに必死になって懇願するほどに。
二人の間の沈黙の空気を通じて、先輩の真面目で真剣な思いがひしひしと私に流れ込んできた。
先輩にとってとても大事な頼みごとだからこそ私も簡単に返事をしていいようには思えなくて、戸惑いを抱えながら唇を内側に丸める。
顔を上げた先輩は、縋るように私が口を開くのを待っていた。
「……どうして、私なんですか?」
スタイルがいいわけでも美人なわけでもなく、ヒロインに相応しいような人目を引く容姿とは見事に違う。自分で言うのも悲しいほどに。
それに演劇部に入っていて演技経験があるという主要な役に抜擢されるような特別な理由も、私にはこれっぽっちもない。


